正規分布の和の分布について解説する。
一般に独立な確率変数の和の分布が同じ分布に従うことは確率分布の再生性として知られており、様々な分布で成り立つ。
その一方、独立でない分布の和の分布は同じ分布に従うとは限らないが正規分布の場合、独立でない分布の和も正規分布に従うことについて見ていく。
確率分布の再生性については次の記事を参照されたい。
正規分布の和の分布
正規分布の和の分布の性質について紹介する。
\(X\sim N(\mu_X, \sigma_X^2)\)、\(Y\sim N(\mu_Y, \sigma_Y^2)\)について次が成り立つ。
\begin{align} \label{eq1} X+ Y \sim N(\mu_X + \mu_Y, \sigma_X^2 + \sigma_Y^2 + 2\sigma_{XY}), \tag{1}\end{align}
ここに\(\rho_{X, Y}\)は\(X\)と\(Y\)の相関係数。
上式は、任意の正規分布の和が正規分布に従うことを意味する。
2つの分布が独立である場合、\(\sigma_{XY} = 0\)であることから和の分布の分散は\(\sigma_X^2 + \sigma_Y^2\)である。
確率分布の再生性で示したように、2つの分布が独立である場合、和の分布は再び同じ分布に従うことが知られているが、独立でないときは必ずしも同じ分布に従うとは限らないため、注意が必要である。正規分布では成り立つ非常に重要な性質である。
この性質は、対応のある母平均の検定の分布を導出する際に用いられる。
証明
\(X\sim N(\mu_X, \sigma_X^2)\)と\(Y\sim N(\mu_Y, \sigma_Y^2)\)の同時分布\(\boldsymbol{Z} = (X, Y)^T\)は次の平均ベクトルと共分散行列をもつ2変量正規分布である。
\begin{gather}\boldsymbol{\mu} = \begin{pmatrix} \mu_X\\ \mu_Y\end{pmatrix} ,\quad \boldsymbol{\Sigma}= \begin{pmatrix} \sigma_X^2 & \rho_{X, Y} \sigma_X\sigma_Y\\ \rho_{X, Y}\sigma_X \sigma_Y & \sigma_Y^2 \end{pmatrix}. \end{gather}
よって、任意の実数ベクトル\(\boldsymbol{t} \in \mathbb{R}^2\)に対し、\(X\)と\(Y\)の同時分布の特性関数は次で与えられる。
\begin{align} \label{eq2} \phi_{\boldsymbol{Z}} (t) &=\mathrm{E}[e^{i\boldsymbol{t}^T \boldsymbol{Z}}]= \exp\left[ i\boldsymbol{t}^T\boldsymbol{\mu}- \cfrac{1}{2} \boldsymbol{t}^T \boldsymbol{\Sigma}\boldsymbol{t}\right]. \tag{2} \end{align}
ここで、定数ベクトル\(\boldsymbol{A} = (1, 1)^T\)を用いることで、
\begin{align} X + Y = \boldsymbol{A}^T \boldsymbol{Z} \end{align}
と書けることから、上式を\eqref{eq2}に代入することで
\begin{align} \phi_{\boldsymbol{A}^T\boldsymbol{Z}} (t) &= \mathrm{E}[e^{it(\boldsymbol{A}^T \boldsymbol{Z})}] \\&=\mathrm{E}[e^{i(t\boldsymbol{A})^T \boldsymbol{Z}}] \\&= \exp\left[ i(t\boldsymbol{A})^T\boldsymbol{\mu}- \cfrac{1}{2} (t\boldsymbol{A})^T \boldsymbol{\Sigma}(t\boldsymbol{A})\right] \\ &= \exp\left[ it\boldsymbol{A}^T\boldsymbol{\mu}- \cfrac{1}{2} t^2\boldsymbol{A}^T \boldsymbol{\Sigma}\boldsymbol{A}\right] \\ &= \exp\left[ it \begin{pmatrix} 1 & 1\end{pmatrix} \begin{pmatrix} \mu_X \\ \mu_Y \end{pmatrix} - \cfrac{1}{2} t^2 \begin{pmatrix} 1& 1\end{pmatrix} \begin{pmatrix} \sigma_X^2 & \rho_{X, Y} \sigma_X\sigma_Y\\ \rho_{X, Y}\sigma_X \sigma_Y & \sigma_Y^2 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1\\1 \end{pmatrix} \right] \\ &= \exp\left[ it(\mu_X + \mu_Y) - \cfrac{1}{2} t^2( \sigma_X^2 + \sigma_Y^2 + 2\rho_{X,Y}\sigma_X \sigma_Y)\right]\end{align}
これは平均\(\mu_X + \mu_Y\)、分散\( \sigma_X^2 + \sigma_Y^2 + 2\rho_{X,Y}\sigma_X \sigma_Y\)の正規分布の特性関数である。ゆえに\eqref{eq1}が得られた。