確率分布の重要な性質である無記憶性について解説する。
無記憶性の定義を紹介し、幾何分布と指数分布についてこの性質が成り立つことを示す。
無記憶性
定義1 離散確率分布の無記憶性
集合\(\{0, 1, 2, \ldots\}\)上の離散確率変数を\(X\)とする。\(m, n\in\{0, 1, 2, \ldots\}\)次が成り立つとき、\(X\)の従う分布は無記憶性をもつという。\begin{align}\label{eq1}\mathrm{Pr}\{X > m + n | X >m\} = \mathrm{Pr}\{X > n\},\tag{1}\end{align}ここに、\(\mathrm{Pr}\{X > m+n | X\geq m\}\)は、\(X\)が\(m\)より大きいとき、\(X\)が\(m+n\)より大きくなる条件付き確率である。
定義2 連続分布の無記憶性
集合\([0, \infty)\)上の連続確率変数を\(X\)とする。\(t, s\in [0, \infty)\)次が成り立つとき、\(X\)の従う分布は無記憶性をもつという。\begin{align}\label{eq2}\mathrm{Pr}\{X > t + s | X > t\} = \mathrm{Pr}\{X > s\},\tag{2}\end{align}
定義1、定義2から分かるように、「無記憶性」とは、特定のイベントまでの時間に関する分布が、経過した時間に依存しないことを意味します。
様々な分布の無記憶性
幾何分布
幾何分布の無記憶性を示す。
確率変数\(X\)は幾何分布に従うとする。このとき\(X\)は次の確率関数を持つ。
ここで、条件付き確率の定義より、\(\mathrm{Pr}\{X > m + n | X \geq m\}\)は次のように書き換えられる。
上式の右辺に幾何分布の分布関数を適用することで次が成り立つ。
よって、幾何分布に従う確率変数は\eqref{eq1}を満たすことが示された。故に、幾何分布は無記憶性をもつ。
指数分布
指数分布の無記憶性を示す。
確率変数\(X\)は幾何分布に従うとする。このとき\(X\)は次の確率関数を持つ。
条件付き確率の定義から、\eqref{eq2}は次のように書き換えられる。
上式の右辺に指数分布の分布関数を適用することで次が成り立つ。
したがって、指数分布に従う確率変数に対して、\eqref{eq2}が成り立つ。故に指数分布は無記憶性をもつ。