カイ二乗分布の正規近似について解説する。
中心極限定理を用いることで、自由度が無限大のときのカイ二乗分布の漸近分布を証明する。
また、そのほかにも単純な中心極限定理を用いた統計量よりも速く収束する統計量についてもみていく。
カイ二乗分布と中心極限定理については以下の記事を参照。
【統計学】カイ2乗分布の確率密度関数
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中心極限定理を用いたカイ二乗分布
自由度が無限大であるときのカイ二乗分布の従う分布は以下のとおりである。
カイ二乗分布の正規近似(中心極限定理)
\(X \sim \chi_{k}^2\)とする。\(n \to \infty\)のとき、漸近的に次が成り立つ。
\eqref{eq1}は自由度\(k\)が十分に大きいときカイ二乗分布\(X\)は\(N(k, 2k)\)に収束することを意味する。
証明
カイ二乗分布の性質より、自由度\(k\)のカイ二乗分布\(X\)は独立同一に自由度\(1\)のカイ二乗分布に従う確率変数\(Z_i,\ i= 1,2, \ldots, k\)を用いて次のように表せる
さらに、カイ二乗分布のモーメントより
したがって、\(\bar{Z} = ( 1/ k)\sum_{i = 1}^k Z_i\)とおくと、中心極限定理より\(k\to \infty\)のとき
デルタ法を用いたカイ二乗分布の正規近似
続いて、上で紹介した中心極限定理をそのまま適用した統計量よりも収束が速い統計量も紹介する。
カイ二乗分布の正規近似(デルタ法)
\(X \sim \chi_{k}^2\)とする。\(k \to \infty \)のとき漸近的に次が成り立つ。
この統計量はロナルド・フィッシャーにより提案された。前述したように上の近似法よりも収束が速いため通常、こちらの統計量を用いる。デルタ法による近似を用いているのが\eqref{eq1}との違いである。
証明
デルタ法を用いて証明を行う。\(f(x) = \sqrt{2x}\)とすると、\(f'(x) = 1/\sqrt{2x} \)である。したがって、\(k \to \infty\)のとき、\eqref{eq2}の\(\sqrt{k} ( \bar{Z} - 1 ) \sim N(0, 2)\)にデルタ法を適用することで
\eqref{eq4}を変形することで
\eqref{eq2}が示せた。□