コーシー分布の確率密度関数を紹介し、標準正規分布の確率密度関数から導出する。
コーシー分布は自由度1のt分布でもある。t分布の確率密度関数の導出方法については、t分布の確率密度関数を参照されたい。
コーシー分布の確率密度関数
確率密度関数
確率変数\(X\)が次の確率密度関数をもつとき、\(X\)は、位置パラメータ\(x_0\)、尺度パラメータ\(\gamma\)のコージー分布に従うという。\begin{align}\label{eq1}f(x) =\cfrac{1}{\pi\gamma}\left[\cfrac{\gamma^2}{(x-x_0)^2+\gamma^2}\right],\ \ -\infty< x<\infty, \tag{1}\end{align}ここに\(x_0\)、\(\gamma >0\)は実数である。
この確率密度関数は標準化されていない自由度1のt分布の確率密度関数でもある。すなわち、自由度1のt分布に従う確率変数を\(T\sim t_1\)とすると、上の確率密度関数を持つ統計量は次で表現される。
この証明についてはこの記事の確率密度関数の導出で行う。
特殊な場合
特殊な場合として、\eqref{eq1}の位置パラメータが\(x_0\)が\(0\)であり、尺度パラメータ\(\gamma\)が\(1\)であるとき、\eqref{eq1}の確率密度関数は次となる。
また、正規分布との関係として、標準正規分布に従う独立な確率変数を\(U, V; \Pi ,\sim N(0,1)\)とすると、次の統計量は\eqref{eq2}の確率密度関数をもつ。
\eqref{eq2}の確率密度関数は自由度1のt分布の確率密度関数でもある。t分布の確率密度関数については、t分布の確率密度関数を参照されたい。
確率密度関数の導出
標準コーシー分布の確率密度関数
標準正規分布に従う独立な確率変数を\(U, V; \Pi ,\sim N(0,1)\)とする。このとき、\(X=U/V\)は標準コーシー分布に従うことを示す。\(U\)と\(V\)は独立に分布しているので、\(U\)と\(V\)の同時密度関数は次の2つの標準正規分布の確率密度関数の積となる。
ここで、次の変数変換を考える。
この変換のヤコビアンは
である。したがって、\eqref{eq3}の同時密度関数を変換することで、\(X\)と\(Y\)の同時密度関数は次で与えられる。
次に、\(y\)の取りうる範囲で積分することで、\(X=U/V\)の周辺密度関数を求める。\(X\)と\(Y\)の同時密度関数を\(y\)で積分すると
が得られる。ここで次の変換を行う。
より、\eqref{eq4}の右辺は次となる
これは\eqref{eq2}の標準コーシー分布の確率密度関数である。\(X=U/V\)が標準コーシー分布に従うことが示された。□
コーシー分布の確率密度関数
標準コーシー分布の確率密度関数で、\eqref{eq2}の確率密度関数が得られたので、標準コーシー分布に従う確率変数を\(Y\)とすると、\(X=\gamma Y+ x_0\)は\eqref{eq1}の確率密度関数をもつことが容易にわかる。実際に、標準コーシー分布に従う確率変数を\(Y\)とし、\(x=\gamma y +x_0\)の変数変換を行うと、この変換のヤコビアンは\(dy/dx = \gamma^{-1}\)であるので、\(X\)の確率密度関数は次で与えられる。
これは\eqref{eq1}のコーシー分布の確率密度関数であり、正規分布に従う確率変数からコーシー分布に従う確率変数を構成できることが示せた。またコーシー分布は、標準化されていない自由度1のt分布に一致することも示せた。□
性質 コーシー分布の逆数の分布
また、コーシー分布の性質として、標準コーシー分布にしたがう確率変数の逆数もまた、標準コーシー分布に従う。すなわち、標準コーシー分布に従う確率変数を\(X\)とすると、次の統計量も標準コーシー分布に従う。\begin{align}Y= \cfrac{1}{X}\end{align}
証明 標準コーシー分布に従う確率変数を\(X\)とする。\(y=1/x\)の変換を考える。この変換のヤコビアンは\(dx/dy = -y^{-2}\)であるので、\(Y\)の確率密度関数は次で与えられる。
したがって、\(Y=1/X\)も標準コーシー分に従う。□